肺を病む
極道地主の総領の
よめとりの日の春の雷かな

意地悪の大工の子などもかなしかり
戦に出でしが
生きてかへらず

その名さへ忘られし頃
飄然とふるさとに来て
咳せし男

大形の被布の模様の赤き花
今も目に見ゆ
六歳の日の恋

我と共に
栗毛の仔馬走らせし
母の無き子の盗癖かな

うすのろの兄と
不具の父もてる三太はかなし
夜も書読む

ある年の盆の祭に
衣貸さむ踊れと言ひし
女を思ふ

千代治等も長じて恋し
子を挙げぬ
わが旅にしてなせしごとくに

小学の首席を我と争ひし
友のいとなむ
木賃宿かな

かの村の登記所に来て
肺病みて
間もなく死にし男もありき