雨のひどくふつてる中で
道路の街灯はびしよびしよぬれ
やくざな建築は坂に傾斜し へしつぶされて歪んでいる
はうはうぼうぼうとした煙霧の中を
あるひとの運命は白くさまよふ
そのひとは大外套に身をくるんで
まづしく みすぼらしい鳶のやうだ
とある建築の窓に生えて
風雨にふるへる ずつくりぬれた青樹をながめる
その青樹の葉つぱがかれを手招き
かなしい雨の景色の中で
厭やらしく 霊魂のぞつとするものを感じさせた。
さうしてびしよびしよに濡れてしまつた。
影も からだも 生活も 悲哀でびしよびしよに濡れてしまつた。