[hs-t52] 見知らぬ犬 – 孤独

田舎の白つぽい道ばたで、
つかれた馬のこころが、
ひからびた日向の草をみつめている、
ななめに、しのしのとほそくもえる、
ふるへるさびしい草をみつめる。

田舎のさびしい日向に立つて、
おまへはなにを視ているのか、
ふるへる、わたしの孤独のたましひよ。

このほこりつぽい風景の顔に、
うすく涙がながれている。

[hs-a40] 閑雅な食慾 – 笛の音のする里へ行かうよ

俥に乗つてはしつて行くとき
野も 山も ばうばうとして霞んでみえる
柳は風にふきながされ
燕も 歌も ひよ鳥も かすみの中に消えさる
ああ 俥のはしる轍を透して
ふしぎな ばうばくたる景色を行手にみる
その風光は遠くひらいて
さびしく憂欝な笛の音を吹き鳴らす
ひとのしのびて耐へがたい情緒である。

このへんてこなる方角をさして行け
春の朧げなる柳のかげで 歌も燕もふきながされ
わたしの俥やさんはいつしんですよ。

意志と無明
観念もしくは心像の世界に就いて

だまつて道ばたの草を食つてる
みじめな 因果の 宿命の 蒼ざめた馬の影です。

[hs-a41] 閑雅な食慾 – 蒼ざめた馬

冬の曇天の 凍りついた天気の下で
そんなに憂欝な自然の中で
だまつて道ばたの草を食つてる
みじめな しよんぼりした 宿命の 因果の 蒼ざめた馬の影です
わたしは影の方へうごいて行き
馬の影はわたしを眺めているやうす。

ああはやく動いてそこを去れ
わたしの生涯の映画幕から
すぐに すぐに外りさつてこんな幻像を消してしまへ
私の「意志」を信じたいのだ。馬よ!
因果の 宿命の 定法の みじめなる
絶望の凍りついた風景の乾板から
蒼ざめた影を逃走しろ。