つめたく青ざめた顔のうへに
け高くにほふ優美の月をうかべています
月のはづかしい面影
やさしい言葉であなたの死骸に話しかける。
ああ 露しげく
しつとりとぬれた猫柳 夜風のなかに動いています。
ここをさまよひきたりて
うれしい情のかずかずを歌ひつくす
そは人の知らないさびしい情慾 さうして情慾です。
ながれるごとき涙にぬれ
私はくちびるに血潮をぬる
ああ なにといふ恋しさなるぞ
この青ざめた死霊にすがりつきてもてあそぶ
夜風にふかれ
猫柳のかげを暗くさまよふよ そは墓場のやさしい歌ごえです。
Tag Archives: 歌
[hs-a40] 閑雅な食慾 – 笛の音のする里へ行かうよ
俥に乗つてはしつて行くとき
野も 山も ばうばうとして霞んでみえる
柳は風にふきながされ
燕も 歌も ひよ鳥も かすみの中に消えさる
ああ 俥のはしる轍を透して
ふしぎな ばうばくたる景色を行手にみる
その風光は遠くひらいて
さびしく憂欝な笛の音を吹き鳴らす
ひとのしのびて耐へがたい情緒である。
このへんてこなる方角をさして行け
春の朧げなる柳のかげで 歌も燕もふきながされ
わたしの俥やさんはいつしんですよ。
意志と無明
観念もしくは心像の世界に就いて
だまつて道ばたの草を食つてる
みじめな 因果の 宿命の 蒼ざめた馬の影です。
[it-k039] いつの年も
いつの年も、
似たよな歌を二つ三つ
年賀の文に書いてよこす友。
[it-k071] 古新聞!
古新聞!
おやここにおれの歌の事を賞めて書いてあり、
二三行なれど。
[it-i011] 煙 – 一 (11)
夜寝ても口笛吹きぬ
口笛は
十五の我の歌にしありけり
[it-i043] 煙 – 一 (43)
近眼にて
おどけし歌をよみ出でし
茂雄の恋もかなしかりしか
[it-i140] 忘れがたき人人 – 一 (39)
かなしきは小樽の町よ
歌ふことなき人人の
声の荒さよ
[st-w01] 若菜集 – 冒頭部
こゝろなきうたのしらべは
ひとふさのぶだうのごとし
なさけあるてにもつまれて
あたゝかきさけとなるらむ
ぶだうだなふかくかゝれる
むらさきのそれにあらねど
こゝろあるひとのなさけに
かげにおくふさのみつよつ
そはうたのわかきゆえなり
あじはひもいろもあさくて
おほかたはかみてすつべき
うたゝねのゆめのそらごと
[st-w48] 四 深林の逍遥、其他 – 君と遊ばん
君と遊ばん夏の夜の
青葉の影の下すゞみ
短かき夢は結ばずも
せめてこよひは歌へかし
雲となりまた雨となる
昼の愁ひはたえずとも
星の光をかぞへ見よ
楽みのかず夜は尽きじ
夢かうつゝか天の川
星に仮寝の織姫の
ひゞきもすみてこひわたる
梭の遠音を聞かめやも
[st-w33] 三 生のあけぼの – 二つの声
朝
たれか聞くらん朝の声
眠と夢を破りいで
彩なす雲にうちのりて
よろづの鳥に歌はれつ
天のかなたにあらはれて
東の空に光あり
そこに時あり始あり
そこに道あり力あり
そこに色あり詞あり
そこに声あり命あり
そこに名ありとうたひつゝ
みそらにあがり地にかけり
のこんの星ともろともに
光のうちに朝ぞ隠るゝ