[st-w09] 一 秋の思 – 知るや君

こゝろもあらぬ秋鳥の
声にもれくる一ふしを
知るや君

深くも澄める朝潮の
底にかくるゝ真珠を
知るや君

あやめもしらぬやみの夜に
静にうごく星くづを
知るや君

まだ弾きも見ぬをとめごの
胸にひそめる琴の音を
知るや君

[st-w06] 一 秋の思 – 君がこゝろは

君がこゝろは蟋蟀の
風にさそはれ鳴くごとく
朝影清き花草に
惜しき涙をそゝぐらむ

それかきならす玉琴の
一つの糸のさはりさへ
君がこゝろにかぎりなき
しらべとこそはきこゆめれ

あゝなどかくは触れやすき
君が優しき心もて
かくばかりなる吾こひに
触れたまはぬぞ恨みなる