ささげまつるゆふべの愛餐、
燭に魚蝋のうれひを薫じ、
いとしがりみどりの窓をひらきなむ。
あはれあれみ空をみれば、
さつきはるばると流るるものを、
手にわれ雲雀の皿をささげ、
いとしがり君がひだりにすすみなむ。
Tag Archives: 君
[hs-a52] 艶めける霊魂 – 片恋
市街を遠くはなれて行つて
僕等は山頂の草に坐つた
空に風景はふきながされ
ぎぼし ゆきしだ わらびの類
ほそくさよさよと草地に生えてる。
君よ弁当をひらき
はやくその卵を割つてください。
私の食慾は光にかつえ
あなたの白い指にまつはる
果物の皮の甘味にこがれる。
君よ なぜ早く篭をひらいて
鶏肉の 腸詰の 砂糖煮の 乾酪のご馳走をくれないのか
ぼくは飢え
ぼくの情慾は身をもだえる。
君よ
君よ
疲れて草に投げ出している
むつちりとした手足のあたり
ふらんねるをきた胸のあたり
ぼくの愛着は熱奮して 高潮して
ああこの苦しさ 圧迫にはたへられない。
高原の草に坐つて
あなたはなにを眺めているのか
あなたの思ひは風にながれ
はるかの市街は空にうかべる
ああ ぼくのみひとり焦燥して
この青青とした草原の上
かなしい願望に身をもだえる。
[it-i231] 忘れがたき人人 – 二 (19)
時として
君を思へば
安かりし心にはかに騒ぐかなしさ
[it-i232] 忘れがたき人人 – 二 (20)
わかれ来て年を重ねて
年ごとに恋しくなれる
君にしあるかな
[it-i233] 忘れがたき人人 – 二 (21)
石狩の都の外の
君が家
林檎の花の散りてやあらむ
[it-i125] 忘れがたき人人 – 一 (24)
大川の水の面を見るごとに
郁雨よ
君のなやみを思ふ
[it-i215] 忘れがたき人人 – 二 (3)
さりげなく言ひし言葉は
さりげなく君も聴きつらむ
それだけのこと
[it-i221] 忘れがたき人人 – 二 (9)
人がいふ
鬢のほつれのめでたさを
物書く時の君に見たりし
[it-i222] 忘れがたき人人 – 二 (10)
馬鈴薯の花咲く頃と
なれりけり
君もこの花を好きたまふらむ
[it-i223] 忘れがたき人人 – 二 (11)
山の子の
山を思ふがごとくにも
かなしき時は君を思へり