[hs-a08] 幻の寝台 – 月夜

重たいおほきな羽をばたばたして
ああ なんといふ弱弱しい心臓の所有者だ。
花瓦斯のやうな明るい月夜に
白くながれてゆく生物の群をみよ
そのしづかな方角をみよ
この生物のもつひとつのせつなる情緒をみよ
あかるい花瓦斯のやうな月夜に
ああ なんといふ悲しげな いじらしい蝶類の騒擾だ。

[hs-a42] 閑雅な食慾 – 思想は一つの意匠であるか

欝蒼としげつた森林の樹木のかげで
ひとつの思想を歩ませながら
仏は蒼明の自然を感じた
どんな瞑想をもいきいきとさせ
どんな涅槃にも溶け入るやうな
そんな美しい月夜をみた。

「思想は一つの意匠であるか」
仏は月影を踏み行きながら
かれのやさしい心にたづねた。