[hs-a42] 閑雅な食慾 – 思想は一つの意匠であるか

欝蒼としげつた森林の樹木のかげで
ひとつの思想を歩ませながら
仏は蒼明の自然を感じた
どんな瞑想をもいきいきとさせ
どんな涅槃にも溶け入るやうな
そんな美しい月夜をみた。

「思想は一つの意匠であるか」
仏は月影を踏み行きながら
かれのやさしい心にたづねた。

[hs-a44] 閑雅な食慾 – 囀鳥

軟風のふく日
暗欝な思惟にしづみながら
しづかな木立の奥で落葉する路を歩いていた。
天気はさつぱりと晴れて
赤松の梢にたかく囀鳥の騒ぐをみた
愉快な小鳥は胸をはつて
ふたたび情緒の調子をかへた。
ああ 過去の私の欝陶しい瞑想から 環境から
どうしてけふの情感をひるがへさう
かつてなにものすら失つていない
人生においてすら。
人生においてすら 私の失つたのは快適だけだ
ああしかし あまりにひさしく快適を失つている。