月に三十円もあれば、田舎にては、
楽に暮せると――
ひょっと思へる。
Author Archives: 石川啄木
[it-k133] いつとなく記憶に残りぬ
いつとなく記憶に残りぬ――
Fといふ看護婦の手の
つめたさなども。
[it-k132] 脈をとる手のふるひこそ
脈をとる手のふるひこそ
かなしけれ――
医者に叱られし若き看護婦!
[it-k131] ふるさとの寺の畔の
ふるさとの寺の畔の
ひばの木の
いただきに来て啼きし閑古鳥!
[it-k130] 閑古鳥
閑古鳥――
渋民村の山荘をめぐる林の
あかつきなつかし。
[it-k129] ふるさとを出でて五年
ふるさとを出でて五年、
病をえて、
かの閑古鳥を夢にきけるかな。
[it-k128] いま、夢に閑古鳥を聞けり
いま、夢に閑古鳥を聞けり。
閑古鳥を忘れざりしが
かなしくあるかな。
[it-k127] 氷嚢のとけて温めば
氷嚢のとけて温めば、
おのづから目がさめ来り、
からだ痛める。
[it-k126] たへがたき渇き覚ゆれど
たへがたき渇き覚ゆれど、
手をのべて
林檎とるだにものうき日かな。
[it-k125] 運命の来て乗れるかと
運命の来て乗れるかと
うたがひぬ――
蒲団の重き夜半の寝覚めに。