[hs-a25] さびしい青猫 – 緑色の笛

この黄昏の野原のなかを
耳のながい象たちがぞろりぞろりと歩いている。
黄色い夕月が風にゆらいで
あちこちに帽子のやうな草つぱがひらひらする。
さびしいですか お嬢さん!
ここに小さな笛があつて その音色は澄んだ緑です。
やさしく歌口をお吹きなさい
とうめいなる空にふるへて
あなたの蜃気楼をよびよせなさい
思慕のはるかな海の方から
ひとつの幻像がしだいにちかづいてくるやうだ。
それはくびのない猫のやうで 墓場の草影にふらふらする
いつそこんな悲しい暮景の中で 私は死んでしまひたいのです。お嬢さん!

[hs-a38] 閑雅な食慾 – 最も原始的な情緒

この密林の奥ふかくに
おほきな護謨葉樹のしげれるさまは
ふしぎな象の耳のやうだ。
薄闇の湿地にかげをひいて
ぞくぞくと這へる羊歯植物 爬虫類
蛇 とかげ いもり 蛙 さんしようをの類。

白昼のかなしい思慕から
なにをあだむが追憶したか
原始の情緒は雲のやうで
むげんにいとしい愛のやうで
はるかな記憶の彼岸にうかんで
とらへどころもありはしない。