霜ふりてすこしつめたき朝を、
手に雲雀料理をささげつつ歩みゆく少女あり、
そのとき並木にもたれ、
白粉もてぬられたる女のほそき指と指との隙間をよくよく窺ひ、
このうまき雲雀料理をば盗み喰べんと欲して、
しきりにも焦心し、
あるひとのごときはあまりに焦心し、まつたく合掌せるにおよべり。
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[hs-t38] くさつた蛤 – くさつた蛤
半身は砂のなかにうもれていて、
それで居てべろべろ舌を出して居る。
この軟体動物のあたまの上には、
砂利や潮みづが、ざら、ざら、ざら、ざら流れている、
ながれている、
ああ夢のやうにしづかにもながれている。
ながれてゆく砂と砂との隙間から、
蛤はまた舌べろをちらちらと赤くもえいづる、
この蛤は非常に憔悴れているのである。
みればぐにやぐにやした内臓がくさりかかつて居るらしい、
それゆえ哀しげな晩かたになると、
青ざめた海岸に坐つていて、
ちら、ちら、ちら、ちらとくさつた息をするのですよ。