[hs-t53] 見知らぬ犬 – 白い共同椅子

森の中の小径にそうて、
まつ白い共同椅子がならんでいる、
そこらはさむしい山の中で、
たいそう緑のかげがふかい、
あちらの森をすかしてみると、
そこにもさみしい木立がみえて、
上品な、まつしろな椅子の足がそろつている。

[hs-a44] 閑雅な食慾 – 囀鳥

軟風のふく日
暗欝な思惟にしづみながら
しづかな木立の奥で落葉する路を歩いていた。
天気はさつぱりと晴れて
赤松の梢にたかく囀鳥の騒ぐをみた
愉快な小鳥は胸をはつて
ふたたび情緒の調子をかへた。
ああ 過去の私の欝陶しい瞑想から 環境から
どうしてけふの情感をひるがへさう
かつてなにものすら失つていない
人生においてすら。
人生においてすら 私の失つたのは快適だけだ
ああしかし あまりにひさしく快適を失つている。