赤松の林をこえて、
くらきおほなみはとほく光つていた、
このさびしき越後の海岸、
しばしはなにを祈るこころぞ、
ひとり夕餉ををはりて、
海水旅館の居間に灯を点ず。
くじら浪海岸にて
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[hs-a44] 閑雅な食慾 – 囀鳥
軟風のふく日
暗欝な思惟にしづみながら
しづかな木立の奥で落葉する路を歩いていた。
天気はさつぱりと晴れて
赤松の梢にたかく囀鳥の騒ぐをみた
愉快な小鳥は胸をはつて
ふたたび情緒の調子をかへた。
ああ 過去の私の欝陶しい瞑想から 環境から
どうしてけふの情感をひるがへさう
かつてなにものすら失つていない
人生においてすら。
人生においてすら 私の失つたのは快適だけだ
ああしかし あまりにひさしく快適を失つている。