[hs-a23] さびしい青猫 – くづれる肉体

蝙蝠のむらがつている野原の中で
わたしはくづれてゆく肉体の柱をながめた
それは宵闇にさびしくふるへて
影にそよぐ死びと草のやうになまぐさく
ぞろぞろと蛆虫の這ふ腐肉のやうに醜くかつた。
ああこの影を曳く景色のなかで
わたしの霊魂はむずがゆい恐怖をつかむ
それは港からきた船のやうに 遠く亡霊のいる島島を渡つてきた
それは風でもない 雨でもない
そのすべては愛欲のなやみにまつはる暗い恐れだ
さうして蛇つかひの吹く鈍い音色に
わたしのくづれてゆく影がさびしく泣いた。

[st-w34] 三 生のあけぼの – 暮

たれか聞くらん暮の声
霞の翼雲の帯
煙の衣露の袖
つかれてなやむあらそひを
闇のかなたに投げ入れて
夜の使の蝙蝠の
飛ぶ間も声のをやみなく
こゝに影あり迷あり
こゝに夢あり眠あり
こゝに闇あり休息あり
こゝに永きあり遠きあり
こゝに死ありとうたひつゝ
草木にいこひ野にあゆみ
かなたに落つる日とともに
色なき闇に暮ぞ隠るゝ