やさしい鴉毛の婦人よ
わたしの家根裏の部屋にしのんできて
麝香のなまめかしい匂ひをみたす
貴女はふしぎな夜鳥
木製の椅子にさびしくとまつて
その嘴は心臓をついばみ 瞳孔はしづかな涙にあふれる
夜鳥よ
このせつない恋情はどこからくるか
あなたの憂欝なる衣裳をぬいで はや夜露の風に飛びされ。
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[it-i016] 煙 – 一 (16)
学校の図書庫の裏の秋の草
黄なる花咲きし
今も名知らず
[st-w16] 一 秋の思 – 望郷
寺をのがれいでたる僧のうたひ
しそのうた
いざさらば
これをこの世のわかれぞと
のがれいでては住みなれし
御寺の蔵裏の白壁の
眼にもふたたび見ゆるかな
いざさらば
住めば仏のやどりさへ
火炎の宅となるものを
なぐさめもなき心より
流れて落つる涙かな
いざさらば
心の油濁るとも
ともしびたかくかきおこし
なさけは熱くもゆる火の
こひしき塵にわれは焼けなむ