とほい空でぴすとるが鳴る。
またぴすとるが鳴る。
ああ私の探偵は玻璃の衣裳をきて、
こひびとの窓からしのびこむ、
床は晶玉、
ゆびとゆびとのあひだから、
まつさをの血がながれている、
かなしい女の屍体のうへで、
つめたいきりぎりすが鳴いている。
しもつき上旬のある朝、
探偵は玻璃の衣裳をきて、
街の十字巷路を曲つた。
十字巷路に秋のふんすい、
はやひとり探偵はうれひをかんず。
みよ、遠いさびしい大理石の歩道を、
曲者はいつさんにすべつてゆく。
とほい空でぴすとるが鳴る。
またぴすとるが鳴る。
ああ私の探偵は玻璃の衣裳をきて、
こひびとの窓からしのびこむ、
床は晶玉、
ゆびとゆびとのあひだから、
まつさをの血がながれている、
かなしい女の屍体のうへで、
つめたいきりぎりすが鳴いている。
しもつき上旬のある朝、
探偵は玻璃の衣裳をきて、
街の十字巷路を曲つた。
十字巷路に秋のふんすい、
はやひとり探偵はうれひをかんず。
みよ、遠いさびしい大理石の歩道を、
曲者はいつさんにすべつてゆく。
秋近し!
電燈の球のぬくもりの
さはれば指の皮膚に親しき。
何がなしに
肺が小さくなれる如く思ひて起きぬ――
秋近き朝。
咽喉がかわき、
まだ起きてゐる果物屋を探しに行きぬ。
秋の夜ふけに。
小心の役場の書記の
気の狂れし噂に立てる
ふるさとの秋
札幌に
かの秋われの持てゆきし
しかして今も持てるかなしみ
アカシヤの街にポプラに
秋の風
吹くがかなしと日記に残れり
しんとして幅広き街の
秋の夜の
玉蜀黍の焼くるにほひよ
学校の図書庫の裏の秋の草
黄なる花咲きし
今も名知らず
そのむかし秀才の名の高かりし
友牢にあり
秋のかぜ吹く