旅よりある女に贈る
山の山頂にきれいな草むらがある、
その上でわたしたちは寝ころんでいた。
眼をあげてとほい麓の方を眺めると、
いちめんにひろびろとした海の景色のやうにおもはれた。
空には風がながれている、
おれは小石をひろつて口にあてながら、
どこといふあてもなしに、
ぼうぼうとした山の頂上をあるいていた。
おれはいまでも、お前のことを思つているのだ。
旅よりある女に贈る
山の山頂にきれいな草むらがある、
その上でわたしたちは寝ころんでいた。
眼をあげてとほい麓の方を眺めると、
いちめんにひろびろとした海の景色のやうにおもはれた。
空には風がながれている、
おれは小石をひろつて口にあてながら、
どこといふあてもなしに、
ぼうぼうとした山の頂上をあるいていた。
おれはいまでも、お前のことを思つているのだ。
恐ろしい山の相貌をみた
まつ暗な夜空にけむりを吹きあげている
おほきな蜘蛛のやうな眼である。
赤くちろちろと舌をだして
うみざりがにのやうに平つくばつてる。
手足をひろくのばして麓いちめんに這ひつた
さびしくおそろしい闇夜である
がうがうといふ風が草を吹いてる 遠くの空で吹いてる。
自然はひつそりと息をひそめ
しだいにふしぎな 大きな山のかたちが襲つてくる。
すぐ近いところにそびえ
怪異な相貌が食はうとする。
胸いたみ、
春の霙の降る日なり。
薬に噎せて、伏して眼をとづ。
眼閉づれど、
心にうかぶ何もなし。
さびしくも、また、眼をあけるかな。
廻診の医者の遅さよ!
痛みある胸に手をおきて
かたく眼をとづ。
青塗の瀬戸の火鉢によりかかり、
眼閉ぢ、眼を開け、
時を惜めり。
起きてみて、
また直ぐ寝たくなる時の
力なき眼に愛でしチュリップ!
あの年のゆく春のころ、
眼をやみてかけし黒眼鏡――
こはしやしにけむ。
クリストを人なりといへば、
妹の眼がかなしくも、
われをあはれむ。
船に酔ひてやさしくなれる
いもうとの眼見ゆ
津軽の海を思へば