ねぼけた桜の咲くころ
白いぼんやりした顔がうかんで
窓で見ている。
ふるいふるい記憶のかげで
どこかの波止場で逢つたやうだが
菫の病欝の匂ひがする
外光のきらきらする硝子窓から
ああ遠く消えてしまつた 虹のやうに。
私はひとつの憂ひを知る
生涯のうす暗い隅を通つて
ふたたび永遠にかへつて来ない。
ねぼけた桜の咲くころ
白いぼんやりした顔がうかんで
窓で見ている。
ふるいふるい記憶のかげで
どこかの波止場で逢つたやうだが
菫の病欝の匂ひがする
外光のきらきらする硝子窓から
ああ遠く消えてしまつた 虹のやうに。
私はひとつの憂ひを知る
生涯のうす暗い隅を通つて
ふたたび永遠にかへつて来ない。
いつとなく記憶に残りぬ――
Fといふ看護婦の手の
つめたさなども。
真白なるラムプの笠の
瑕のごと
流離の記憶消しがたきかな