われは手のうへに土を盛り、
土のうへに種をまく、
いま白きじようろもて土に水をそそぎしに、
水はせんせんとふりそそぎ、
土のつめたさはたなごころの上にぞしむ。
ああ、とほく五月の窓をおしひらきて、
われは手を日光のほとりにさしのべしが、
さわやかなる風景の中にしあれば、
皮膚はかぐはしくぬくもりきたり、
手のうへの種はいとほしげにも呼吸づけり。
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[hs-t23] 悲しい月夜 – 死
みつめる土地の底から、
奇妙きてれつの手がでる、
足がでる、
くびがでしやばる、
諸君、
こいつはいつたい、
なんといふ鵝鳥だい。
みつめる土地の底から、
馬鹿づらをして、
手がでる、
足がでる、
くびがでしやばる。
[hs-t27] 悲しい月夜 – 蛙の死
蛙が殺された、
子供がまるくなつて手をあげた、
みんないつしよに、
かわゆらしい、
血だらけの手をあげた、
月が出た、
丘の上に人が立つている。
帽子の下に顔がある。
幼年思慕篇
[hs-t32] くさつた蛤 – およぐひと
およぐひとのからだはななめにのびる、
二本の手はながくそろへてひきのばされる、
およぐひとの心臓はくらげのやうにすきとほる、
およぐひとの瞳はつりがねのひびきをききつつ、
およぐひとのたましひは水のうへの月をみる。
[hs-t35] くさつた蛤 – 貝
つめたきもの生れ、
その歯はみづにながれ、
その手はみづにながれ、
潮さし行方もしらにながるるものを、
浅瀬をふみてわが呼ばへば、
貝は遠音にこたふ。
[hs-t06] 竹とその哀傷 – 亀
林あり、
沼あり、
蒼天あり、
ひとの手にはおもみを感じ
しづかに純金の亀ねむる、
この光る、
寂しき自然のいたみにたへ、
ひとの心霊にまさぐりしづむ、
亀は蒼天のふかみにしづむ。
[hs-t12] 雲雀料理 – 感傷の手
わが性のせんちめんたる、
あまたある手をかなしむ、
手はつねに頭上にをどり、
また胸にひかりさびしみしが、
しだいに夏おとろへ、
かへれば燕はや巣を立ち、
おほ麦はつめたくひやさる。
ああ、都をわすれ、
われすでに胡弓を弾かず、
手ははがねとなり、
いんさんとして土地を掘る。
いじらしき感傷の手は土地を掘る。
[hs-t13] 雲雀料理 – 山居
八月は祈祷、
魚鳥遠くに消え去り、
桔梗いろおとろへ、
しだいにおとろへ、
わが心いたくおとろへ、
悲しみ樹蔭をいでず、
手に聖書は銀となる。
[hs-t16] 雲雀料理 – 盆景
春夏すぎて手は琥珀、
瞳は水盤にぬれ、
石はらんすい、
いちいちに愁ひをくんず、
みよ山水のふかまに、
ほそき滝ながれ、
滝ながれ、
ひややかに魚介はしづむ。
[hs-t17] 雲雀料理 – 雲雀料理
ささげまつるゆふべの愛餐、
燭に魚蝋のうれひを薫じ、
いとしがりみどりの窓をひらきなむ。
あはれあれみ空をみれば、
さつきはるばると流るるものを、
手にわれ雲雀の皿をささげ、
いとしがり君がひだりにすすみなむ。