ゆるぎ出づる汽車の窓より
人先に顔を引きしも
負けざらむため
Category Archives: 一握の砂
[it-i162] 忘れがたき人人 – 一 (61)
みぞれ降る
石狩の野の汽車に読みし
ツルゲエネフの物語かな
[it-i163] 忘れがたき人人 – 一 (62)
わが去れる後の噂を
おもひやる旅出はかなし
死ににゆくごと
[it-i164] 忘れがたき人人 – 一 (63)
わかれ来てふと瞬けば
ゆくりなく
つめたきものの頬をつたへり
[it-i165] 忘れがたき人人 – 一 (64)
忘れ来し煙草を思ふ
ゆけどゆけど
山なほ遠き雪の野の汽車
[it-i166] 忘れがたき人人 – 一 (65)
うす紅く雪に流れて
入日影
曠野の汽車の窓を照せり
[it-i167] 忘れがたき人人 – 一 (66)
腹すこし痛み出でしを
しのびつつ
長路の汽車にのむ煙草かな
[it-i168] 忘れがたき人人 – 一 (67)
乗合の砲兵士官の
剣の鞘
がちゃりと鳴るに思ひやぶれき
[it-i169] 忘れがたき人人 – 一 (68)
名のみ知りて縁もゆかりもなき土地の
宿屋安けし
我が家のごと
[it-i170] 忘れがたき人人 – 一 (69)
伴なりしかの代議士の
口あける青き寐顔を
かなしと思ひき