ながい疾患のいたみから、
その顔はくもの巣だらけとなり、
腰からしたは影のやうに消えてしまひ、
腰からうへには薮が生え、
手が腐れ
身体いちめんがじつにめちやくちやなり、
ああ、けふも月が出で、
有明の月が空に出で、
そのぼんぼりのやうなうすらあかりで、
畸形の白犬が吠えている。
しののめちかく、
さみしい道路の方で吠える犬だよ。
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[hs-a29] さびしい青猫 – 憂欝な風景
猫のやうに憂欝な景色である
さびしい風船はまつすぐに昇つてゆき
りんねるを着た人物がちらちらと居るではないか。
もうとつくにながい間
だれもこんな波止場を思つてみやしない。
さうして荷揚げ機械のばうぜんとしている海角から
いろいろさまざまな生物意識が消えて行つた。
そのうへ帆船には綿が積まれて
それが沖の方でむくむくと考へこんでいるではないか。
なんと言ひやうもない
身の毛もよだち ぞつとするやうな思ひ出ばかりだ。
ああ神よ もうとりかへすすべもない
さうしてこんなむしばんだ回想から いつも幼な児のやうに泣いて居よう。
[it-k176] 俺ひとり下宿屋にやりてくれぬかと
俺ひとり下宿屋にやりてくれぬかと、
今日もあやふく、
いひ出でしかな。
[it-k065] 珍らしく、今日は
珍らしく、今日は、
議会を罵りつつ涙出でたり。
うれしと思ふ。
[it-k062] 目さまして直ぐの心よ!
目さまして直ぐの心よ!
年よりの家出の記事にも
涙出でたり。
[it-i117] 忘れがたき人人 – 一 (16)
朝な朝な
支那の俗歌をうたひ出づる
まくら時計を愛でしかなしみ
[it-i163] 忘れがたき人人 – 一 (62)
わが去れる後の噂を
おもひやる旅出はかなし
死ににゆくごと
[it-i211] 忘れがたき人人 – 一 (110)
わが室に女泣きしを
小説のなかの事かと
おもひ出づる日
[it-i224] 忘れがたき人人 – 二 (12)
忘れをれば
ひょっとした事が思ひ出の種にまたなる
忘れかねつも
[it-i229] 忘れがたき人人 – 二 (17)
しみじみと
物うち語る友もあれ
君のことなど語り出でなむ