兵隊どもの列の中には、
性分のわるいものが居たので、
たぶん標的の図星をはづした。
銃殺された男が、
夢のなかで息をふきかへしたときに、
空にはさみしいなみだがながれていた。
『これはさういふ種類の煙草です』
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[hs-a09] 幻の寝台 – 春の感情
ふらんすからくる煙草のやにのにほひのやうだ
そのにほひをかいでいると気がうつとりとする
うれはしい かなしい さまざまのいりこみたる空の感情
つめたい銀いろの小鳥のなきごえ
春がくるときのよろこびは
あらゆるひとのいのちをふきならす笛のひびきのやうだ
ふるへる めづらしい野路のくさばな
おもたく雨にぬれた空気の中にひろがるひとつの音色
なやましき女のなきごえはそこにもきこえて
春はしつとりとふくらんでくるやうだ。
春としなれば山奥のふかい森の中でも
くされた木株の中でもうごめくみみずのやうに
私のたましひはぞくぞくとして菌を吹き出す
たとへば毒だけ へびだけ べにひめじのやうなもの
かかる菌の類はあやしげなる色香をはなちて
ひねもすさびしげに匂つている。
春がくる 春がくる
春がくるときのよろこびは あらゆるひとのいのちを吹きならす笛のひびきのやうだ
そこにもここにも
ぞくぞくとしてふきだす菌 毒だけ
また薮かげに生えてほのかに光るべにひめじの類。
[hs-a21] さびしい青猫 – 題のない歌
南洋の日にやけた裸か女のやうに
夏草の茂つている波止場の向うへ ふしぎな赤錆びた汽船がはひつてきた
ふはふはとした雲が白くたちのぼつて
船員のすふ煙草のけむりがさびしがつてる。
わたしは鶉のやうに羽ばたきながら
さうして丈の高い野茨の上を飛びまはつた
ああ 雲よ 船よ どこに彼女は航海の碇をすてたか
ふしぎな情熱になやみながら
わたしは沈黙の墓地をたづねあるいた
それはこの草叢の風に吹かれている
しづかに 錆びついた 恋愛鳥の木乃伊であつた。
[it-k171] 胸いたむ日のかなしみも
胸いたむ日のかなしみも、
かをりよき煙草の如く、
棄てがたきかな。
[it-k168] 何もかもいやになりゆく
何もかもいやになりゆく
この気持よ。
思ひ出しては煙草を吸ふなり。
[it-k013] うっとりと
うっとりと
本の挿絵に眺め入り、
煙草の煙吹きかけてみる。
[it-k092] 晴れし日のかなしみの一つ!
晴れし日のかなしみの一つ!
病室の窓にもたれて
煙草を味ふ。
[it-i165] 忘れがたき人人 – 一 (64)
忘れ来し煙草を思ふ
ゆけどゆけど
山なほ遠き雪の野の汽車
[it-i167] 忘れがたき人人 – 一 (66)
腹すこし痛み出でしを
しのびつつ
長路の汽車にのむ煙草かな