旅よりある女に贈る
山の山頂にきれいな草むらがある、
その上でわたしたちは寝ころんでいた。
眼をあげてとほい麓の方を眺めると、
いちめんにひろびろとした海の景色のやうにおもはれた。
空には風がながれている、
おれは小石をひろつて口にあてながら、
どこといふあてもなしに、
ぼうぼうとした山の頂上をあるいていた。
おれはいまでも、お前のことを思つているのだ。
旅よりある女に贈る
山の山頂にきれいな草むらがある、
その上でわたしたちは寝ころんでいた。
眼をあげてとほい麓の方を眺めると、
いちめんにひろびろとした海の景色のやうにおもはれた。
空には風がながれている、
おれは小石をひろつて口にあてながら、
どこといふあてもなしに、
ぼうぼうとした山の頂上をあるいていた。
おれはいまでも、お前のことを思つているのだ。
旅を思ふ夫の心!
叱り、泣く、妻子の心!
朝の食卓!
田舎めく旅の姿を
三日ばかり都に曝し
かへる友かな
千代治等も長じて恋し
子を挙げぬ
わが旅にしてなせしごとくに
たのみつる年の若さを数へみて
指を見つめて
旅がいやになりき
わが去れる後の噂を
おもひやる旅出はかなし
死ににゆくごと
十年まへに作りしといふ漢詩を
酔へば唱へき
旅に老いし友
浪淘沙
ながくも声をふるはせて
うたふがごとき旅なりしかな
頬の寒き
流離の旅の人として
路問ふほどのこと言ひしのみ
かの旅の汽車の車掌が
ゆくりなくも
我が中学の友なりしかな