あの頃はよく嘘を言ひき。
平気にてよく嘘を言ひき。
汗が出づるかな。
Author Archives: 石川啄木
[it-k079] どうかかうか、今月も無事に暮らしたりと
どうかかうか、今月も無事に暮らしたりと、
外に欲もなき
晦日の晩かな。
[it-k078] 原稿紙にでなくては
原稿紙にでなくては
字を書かぬものと、
かたく信ずる我が児のあどけなさ!
[it-k087] 重い荷を下したやうな
重い荷を下したやうな、
気持なりき、
この寝台の上に来ていねしとき。
[it-k088] そんならば生命が欲しくないのかと
そんならば生命が欲しくないのかと、
医者に言はれて、
だまりし心!
[it-k089] 真夜中にふと目がさめて
真夜中にふと目がさめて、
わけもなく泣きたくなりて、
蒲団をかぶれる。
[it-k098] 目さませば、からだ痛くて
目さませば、からだ痛くて
動かれず。
泣きたくなりて、夜明くるを待つ。
[it-k097] ふくれたる腹を撫でつつ
ふくれたる腹を撫でつつ、
病院の寝台に、ひとり、
かなしみてあり。
[it-k096] 何となく自分をえらい人のやうに
何となく自分をえらい人のやうに
思ひてゐたりき。
子供なりしかな。
[it-k095] 病院に入りて初めての夜といふに
病院に入りて初めての夜といふに、
すぐ寝入りしが、
物足らぬかな。