そよげる
やはらかい草の影から
花やかに いきいきと目をさましてくる情慾
燃えあがるやうに
たのしく
うれしく
こころ春めく春の感情。
つかれた生涯のあじない昼にも
孤独の暗い部屋の中にも
しぜんとやはらかく そよげる窓の光はきたる
いきほひたかぶる機能の昂進
そは世に艶めけるおもひのかぎりだ
勇気にあふれる希望のすべてだ。
ああこのわかやげる思ひこそは
春日にとける雪のやうだ
やさしく芽ぐみ
しぜんに感ずるぬくみのやうだ
たのしく
うれしく
こころときめく性の躍動。
とざせる思想の底を割つて
しづかにながれるいのちをかんずる
あまりに憂欝のなやみふかい沼の底から
わづかに水のぬくめるやうに
さしぐみ
はじらひ
ためらひきたれる春をかんずる。
春の雪みだれて降るを
熱のある目に
かなしくも眺め入りたる。
真夜中にふと目がさめて、
わけもなく泣きたくなりて、
蒲団をかぶれる。
ドア推してひと足出れば、
病人の目にはてもなき
長廊下かな。
何となく、
今朝は少しく、わが心明るきごとし。
手の爪を切る。
何となく、
今年はよい事あるごとし。
元日の朝、晴れて風無し。
何となく、
案外に多き気もせらる、
自分と同じこと思ふ人。
何となく、
自分を嘘のかたまりの如く思ひて、
目をばつぶれる。
わが病の
その因るところ深く且つ遠きを思ふ。
目をとぢて思ふ。
目さまして直ぐの心よ！
年よりの家出の記事にも
涙出でたり。
目さませば、からだ痛くて
動かれず。
泣きたくなりて、夜明くるを待つ。
病みて四月――
そのときどきに変りたる
くすりの味もなつかしきかな。
病みて四月――
その間にも、猶、目に見えて、
わが子の背丈のびしかなしみ。
人間のその最大のかなしみが
これかと
ふっと目をばつぶれる。