死にたくはないかと言へば
これ見よと
咽喉の痍を見せし女かな
Category Archives: 一握の砂
[it-i192] 忘れがたき人人 – 一 (91)
芸事も顔も
かれより優れたる
女あしざまに我を言へりとか
[it-i193] 忘れがたき人人 – 一 (92)
舞へといへば立ちて舞ひにき
おのづから
悪酒の酔ひにたふるるまでも
[it-i194] 忘れがたき人人 – 一 (93)
死ぬばかり我が酔ふをまちて
いろいろの
かなしきことを囁きし人
[it-i195] 忘れがたき人人 – 一 (94)
いかにせしと言へば
あをじろき酔ひざめの
面に強ひて笑みをつくりき
[it-i196] 忘れがたき人人 – 一 (95)
かなしきは
かの白玉のごとくなる腕に残せし
キスの痕かな
[it-i197] 忘れがたき人人 – 一 (96)
酔ひてわがうつむく時も
水ほしと眼ひらく時も
呼びし名なりけり
[it-i198] 忘れがたき人人 – 一 (97)
火をしたふ虫のごとくに
ともしびの明るき家に
かよひ慣れにき
[it-i199] 忘れがたき人人 – 一 (98)
きしきしと寒さに踏めば板軋む
かへりの廊下の
不意のくちづけ
[it-i200] 忘れがたき人人 – 一 (99)
その膝に枕しつつも
我がこころ
思ひしはみな我のことなり