さらさらと氷の屑が
波に鳴る
磯の月夜のゆきかへりかな
Category Archives: 一握の砂
[it-i202] 忘れがたき人人 – 一 (101)
死にしとかこのごろ聞きぬ
恋がたき
才あまりある男なりしが
[it-i203] 忘れがたき人人 – 一 (102)
十年まへに作りしといふ漢詩を
酔へば唱へき
旅に老いし友
[it-i204] 忘れがたき人人 – 一 (103)
吸ふごとに
鼻がぴたりと凍りつく
寒き空気を吸ひたくなりぬ
[it-i205] 忘れがたき人人 – 一 (104)
波もなき二月の湾に
白塗の
外国船が低く浮かべり
[it-i206] 忘れがたき人人 – 一 (105)
三味線の絃のきれしを
火事のごと騒ぐ子ありき
大雪の夜に
[it-i207] 忘れがたき人人 – 一 (106)
神のごと
遠く姿をあらはせる
阿寒の山の雪のあけぼの
[it-i208] 忘れがたき人人 – 一 (107)
郷里にゐて
身投げせしことありといふ
女の三味にうたへるゆふべ
[it-i209] 忘れがたき人人 – 一 (108)
葡萄色の
古き手帳にのこりたる
かの会合の時と処かな
[it-i210] 忘れがたき人人 – 一 (109)
よごれたる足袋穿く時の
気味わるき思ひに似たる
思出もあり