ひややかに清き大理石に
春の日の静かに照るは
かかる思ひならむ
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[st-w39] 四 深林の逍遥、其他 – 四
ゆびをりくればいつたびも
かはれる雲をながむるに
白きは黄なりなにをかも
もつ筆にせむ色彩の
いつしか淡く茶を帯びて
雲くれないとかはりけり
あゝゆふまぐれわれひとり
たどる林もひらけきて
いと静かなる湖の
岸辺にさける花躑躅
うき雲ゆけばかげ見えて
水に沈める春の日や
それ紅の色染めて
雲紫となりぬれば
かげさへあかき水鳥の
春のみづうみ岸の草
深き林や花つゝじ
迷ふひとりのわがみだに
深紫の紅の
彩にうつろふ夕まぐれ
[st-w17] 二 六人の処女 – おえふ
処女ぞ経ぬるおほかたの
われは夢路を越えてけり
わが世の坂にふりかへり
いく山河をながむれば
水静かなる江戸川の
ながれの岸にうまれいで
岸の桜の花影に
われは処女となりにけり
都鳥浮く大川に
流れてそゝぐ川添の
白菫さく若草に
夢多かりし吾身かな
雲むらさきの九重の
大宮内につかへして
清涼殿の春の夜の
月の光に照らされつ
雲を彫め涛を刻り
霞をうかべ日をまねく
玉の台の欄干に
かゝるゆふべの春の雨
さばかり高き人の世の
耀くさまを目にも見て
ときめきたまふさま/″\の
ひとりのころもの香をかげり
きらめき初むる暁星の
あしたの空に動くごと
あたりの光きゆるまで
さかえの人のさまも見き
天つみそらを渡る日の
影かたぶけるごとくにて
名の夕暮に消えて行く
秀でし人の末路も見き
春しづかなる御園生の
花に隠れて人を哭き
秋のひかりの窓に倚り
夕雲とほき友を恋ふ
ひとりの姉をうしなひて
大宮内の門を出で
けふ江戸川に来て見れば
秋はさみしきながめかな
桜の霜葉黄に落ちて
ゆきてかへらぬ江戸川や
流れゆく水静かにて
あゆみは遅きわがおもひ
おのれも知らず世を経れば
若き命に堪へかねて
岸のほとりの草を藉き
微笑みて泣く吾身かな