おとなしき家畜のごとき
心となる、
熱やや高き日のたよりなさ。
Author Archives: 石川啄木
[it-k163] 枕辺の障子あけさせて
枕辺の障子あけさせて、
空を見る癖もつけるかな――
長き病に。
[it-k162] 薬のむことを忘れて
薬のむことを忘れて、
ひさしぶりに、
母に叱られしをうれしと思へる。
[it-k161] あの年のゆく春のころ
あの年のゆく春のころ、
眼をやみてかけし黒眼鏡――
こはしやしにけむ。
[it-k148] いつしかに夏となれりけり
いつしかに夏となれりけり。
やみあがりの目にこころよき
雨の明るさ!
[it-k051] やみがたき用を忘れ来ぬ
やみがたき用を忘れ来ぬ――
途中にて口に入れたる
ゼムのためなりし。
[it-k038] 腹の底より欠伸もよほし
腹の底より欠伸もよほし
ながながと欠伸してみぬ、
今年の元日。
[it-k037] 戸の面には羽子突く音す
戸の面には羽子突く音す。
笑う声す。
去年の正月にかへれるごとし。
[it-k036] 昨日まで朝から晩まで張りつめし
昨日まで朝から晩まで張りつめし
あのこころもち
忘れじと思へど。
[it-k035] 年明けてゆるめる心!
年明けてゆるめる心!
うっとりと
来し方をすべて忘れしごとし。