どこから犯人は逃走した?
ああ、いく年もいく年もまへから、
ここに倒れた椅子がある、
ここに兇器がある、
ここに屍体がある、
ここに血がある、
さうして青ざめた五月の高窓にも、
おもひにしづんだ探偵のくらい顔と、
さびしい女の髪の毛とがふるへて居る。
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[hs-a32] さびしい青猫 – 輪廻と転生
地獄の鬼がまはす車のやうに
冬の日はごろごろとさびしくまはつて
輪の小鳥は砂原のかげに死んでしまつた。
ああ こんな陰欝な季節がつづくあひだ
私は幻の駱駝にのつて
ふらふらとかなしげな旅行にでようとする。
どこにこんな荒寥の地方があるのだらう
年をとつた乞食の群は
いくたりとなく隊列のあとをすぎさつてゆき
禿鷹の屍肉にむらがるやうに
きたない小虫が焼地の穢土にむらがつている。
なんといふいたましい風物だらう
どこにもくびのながい花が咲いて
それがゆらゆらと動いているのだ
考へることもない かうして暮れ方がちかづくのだらう
恋や孤独やの一生から
はりあひのない心像も消えてしまつて ほのかに幽霊のやうに見えるばかりだ。
どこを風見の鶏が見ているのか
冬の日のごろごろとる瘠地の丘で もろこしの葉が吹かれている。
[it-k129] ふるさとを出でて五年
ふるさとを出でて五年、
病をえて、
かの閑古鳥を夢にきけるかな。
[it-k161] あの年のゆく春のころ
あの年のゆく春のころ、
眼をやみてかけし黒眼鏡――
こはしやしにけむ。
[it-k040] 正月の四日になりて
正月の四日になりて
あの人の
年に一度の葉書も来にけり。
[it-k039] いつの年も
いつの年も、
似たよな歌を二つ三つ
年賀の文に書いてよこす友。
[it-k064] 自分よりも年若き人に
自分よりも年若き人に、
半日も気焔を吐きて、
つかれし心!
[it-k081] 古手紙よ!
古手紙よ!
あの男とも、五年前は、
かほど親しく交はりしかな。
[it-k062] 目さまして直ぐの心よ!
目さまして直ぐの心よ!
年よりの家出の記事にも
涙出でたり。
[it-k077] この四五年
この四五年、
空を仰ぐといふことが一度もなかりき。
かうもなるものか?