よごれたる手を洗ひし時の
かすかなる満足が
今日の満足なりき。
Author Archives: 石川啄木
[it-k033] よごれたる手をみる
よごれたる手をみる――
ちゃうど
この頃の自分の心に対ふがごとし。
[it-k032] 朝寝して新聞読む間なかりしを
朝寝して新聞読む間なかりしを
負債のごとく
今日も感ずる。
[it-k031] 今日ひょいと山が恋しくて
今日ひょいと山が恋しくて
山に来ぬ。
去年腰掛けし石をさがすかな。
[it-k030] 考へれば
考へれば、
ほんとに欲しと思ふこと有るやうで無し。
煙管をみがく。
[it-k039] いつの年も
いつの年も、
似たよな歌を二つ三つ
年賀の文に書いてよこす友。
[it-k040] 正月の四日になりて
正月の四日になりて
あの人の
年に一度の葉書も来にけり。
[it-k041] 世におこなひがたき事のみ考へる
世におこなひがたき事のみ考へる
われの頭よ!
今年もしかるか。
[it-k050] 手を打ちて
手を打ちて
眠気の返事きくまでの
そのもどかしさに似たるもどかしさ!
[it-k049] ぢっとして
ぢっとして、
蜜柑のつゆに染まりたる爪を見つむる
心もとなさ!