すこやかに、
背丈のびゆく子を見つつ、
われの日毎にさびしきは何ぞ。
Author Archives: 石川啄木
[it-k149] 病みて四月
病みて四月――
そのときどきに変りたる
くすりの味もなつかしきかな。
病みて四月――
その間にも、猶、目に見えて、
わが子の背丈のびしかなしみ。
[it-k158] お菓子貰ふ時も忘れて
お菓子貰ふ時も忘れて、
二階より、
町の往来を眺むる子かな。
[it-k159] 新しきインクの匂ひ
新しきインクの匂ひ、
目に沁むもかなしや。
いつか庭の青めり。
[it-k160] ひとところ、畳を見つめてありし間の
ひとところ、畳を見つめてありし間の
その思ひを、
妻よ、語れといふか。
[it-k169] 或る市にゐし頃の事として
或る市にゐし頃の事として、
友の語る
恋がたりに嘘の交るかなしさ。
[it-k168] 何もかもいやになりゆく
何もかもいやになりゆく
この気持よ。
思ひ出しては煙草を吸ふなり。
[it-k167] あてもなき金などを待つ思ひかな
あてもなき金などを待つ思ひかな。
寝つ起きつして、
今日も暮したり。
[it-k166] 放たれし女のごとく
放たれし女のごとく、
わが妻の振舞ふ日なり。
ダリヤを見入る。
[it-k165] 何か、かう、書いてみたくなりて
何か、かう、書いてみたくなりて、
ペンを取りぬ――
花活の花あたらしき朝。