みつめる土地の底から、
奇妙きてれつの手がでる、
足がでる、
くびがでしやばる、
諸君、
こいつはいつたい、
なんといふ鵝鳥だい。
みつめる土地の底から、
馬鹿づらをして、
手がでる、
足がでる、
くびがでしやばる。
Tag Archives: 底
[hs-t45] さびしい情慾 – 肖像
あいつはいつも歪んだ顔をして、
窓のそばに突つ立つている、
白いさくらが咲く頃になると、
あいつはまた地面の底から、
むぐらもちのやうに這ひ出してくる、
じつと足音をぬすみながら、
あいつが窓にしのびこんだところで、
おれは早取写真にうつした。
ぼんやりした光線のかげで、
白つぽけた乾板をすかして見たら、
なにかの影のやうに薄く写つていた。
おれのくびから上だけが、
おいらん草のやうにふるへていた。
[hs-t01] 竹とその哀傷 – 地面の底の病気の顔
地面の底に顔があらはれ、
さみしい病人の顔があらはれ。
地面の底のくらやみに、
うらうら草の茎が萌えそめ、
鼠の巣が萌えそめ、
巣にこんがらかつている、
かずしれぬ髪の毛がふるえ出し、
冬至のころの、
さびしい病気の地面から、
ほそい青竹の根が生えそめ、
生えそめ、
それがじつにあはれふかくみえ、
けぶれるごとくに視え、
じつに、じつに、あはれふかげに視え。
地面の底のくらやみに、
さみしい病人の顔があらはれ。
[hs-t14] 雲雀料理 – 苗
苗は青空に光り、
子供は土地を掘る。
生えざる苗をもとめむとして、
あかるき鉢の底より、
われは白き指をさしぬけり。
[hs-a50] 艶めける霊魂 – 艶めける霊魂
そよげる
やはらかい草の影から
花やかに いきいきと目をさましてくる情慾
燃えあがるやうに
たのしく
うれしく
こころ春めく春の感情。
つかれた生涯のあじない昼にも
孤独の暗い部屋の中にも
しぜんとやはらかく そよげる窓の光はきたる
いきほひたかぶる機能の昂進
そは世に艶めけるおもひのかぎりだ
勇気にあふれる希望のすべてだ。
ああこのわかやげる思ひこそは
春日にとける雪のやうだ
やさしく芽ぐみ
しぜんに感ずるぬくみのやうだ
たのしく
うれしく
こころときめく性の躍動。
とざせる思想の底を割つて
しづかにながれるいのちをかんずる
あまりに憂欝のなやみふかい沼の底から
わづかに水のぬくめるやうに
さしぐみ
はじらひ
ためらひきたれる春をかんずる。
[it-k038] 腹の底より欠伸もよほし
腹の底より欠伸もよほし
ながながと欠伸してみぬ、
今年の元日。
[st-w09] 一 秋の思 – 知るや君
こゝろもあらぬ秋鳥の
声にもれくる一ふしを
知るや君
深くも澄める朝潮の
底にかくるゝ真珠を
知るや君
あやめもしらぬやみの夜に
静にうごく星くづを
知るや君
まだ弾きも見ぬをとめごの
胸にひそめる琴の音を
知るや君