雪のなか
処処に屋根見えて
煙突の煙うすくも空にまよへり
Author Archives: 石川啄木
[it-i190] 忘れがたき人人 – 一 (89)
よりそひて
深夜の雪の中に立つ
女の右手のあたたかさかな
[it-i191] 忘れがたき人人 – 一 (90)
死にたくはないかと言へば
これ見よと
咽喉の痍を見せし女かな
[it-i192] 忘れがたき人人 – 一 (91)
芸事も顔も
かれより優れたる
女あしざまに我を言へりとか
[it-i204] 忘れがたき人人 – 一 (103)
吸ふごとに
鼻がぴたりと凍りつく
寒き空気を吸ひたくなりぬ
[it-i203] 忘れがたき人人 – 一 (102)
十年まへに作りしといふ漢詩を
酔へば唱へき
旅に老いし友
[it-i202] 忘れがたき人人 – 一 (101)
死にしとかこのごろ聞きぬ
恋がたき
才あまりある男なりしが
[it-i201] 忘れがたき人人 – 一 (100)
さらさらと氷の屑が
波に鳴る
磯の月夜のゆきかへりかな
[it-i200] 忘れがたき人人 – 一 (99)
その膝に枕しつつも
我がこころ
思ひしはみな我のことなり
[it-i199] 忘れがたき人人 – 一 (98)
きしきしと寒さに踏めば板軋む
かへりの廊下の
不意のくちづけ