兵隊どもの列の中には、
性分のわるいものが居たので、
たぶん標的の図星をはづした。
銃殺された男が、
夢のなかで息をふきかへしたときに、
空にはさみしいなみだがながれていた。
『これはさういふ種類の煙草です』
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[hs-t42] さびしい情慾 – 恋を恋する人
わたしはくちびるにべにをぬつて、
あたらしい白樺の幹に接吻した、
よしんば私が美男であらうとも、
わたしの胸にはごむまりのやうな乳房がない、
わたしの皮膚からはきめのこまかい粉おしろいのにほひがしない、
わたしはしなびきつた薄命男だ、
ああ、なんといふいじらしい男だ、
けふのかぐはしい初夏の野原で、
きらきらする木立の中で、
手には空色の手ぶくろをすつぽりとはめてみた、
腰にはこるせつとのやうなものをはめてみた、
襟には襟おしろいのやうなものをぬりつけた、
かうしてひつそりとしなをつくりながら、
わたしは娘たちのするやうに、
こころもちくびをかしげて、
あたらしい白樺の幹に接吻した、
くちびるにばらいろのべにをぬつて、
まつしろの高い樹木にすがりついた。
[hs-a02] 幻の寝台 – 寝台を求む
どこに私たちの悲しい寝台があるか
ふつくりとした寝台の 白いふとんの中にうづくまる手足があるか
私たち男はいつも悲しい心でいる
私たちは寝台をもたない
けれどもすべての娘たちは寝台をもつ
すべての娘たちは 猿に似たちひさな手足をもつ
さうして白い大きな寝台の中で小鳥のやうにうづくまる
すべての娘たちは 寝台の中でたのしげなすすりなきをする
ああ なんといふしあはせの奴らだ
この娘たちのやうに
私たちもあたたかい寝台をもとめて
私たちもさめざめとすすりなきがしてみたい。
みよ すべての美しい寝台の中で 娘たちの胸は互にやさしく抱きあふ
心と心と
手と手と
足と足と
からだとからだとを紐にてむすびつけよ
心と心と
手と手と
足と足と
からだとからだとを撫でることによりて慰めあへよ
このまつ白の寝台の中では
なんといふ美しい娘たちの皮膚のよろこびだ
なんといふいじらしい感情のためいきだ。
けれども私たち男の心はまづしく
いつも悲しみにみちて大きな人類の寝台をもとめる
その寝台はばね仕掛けでふつくりとしてあたたかい
まるで大雪の中にうづくまるやうに
人と人との心がひとつに解けあふ寝台
かぎりなく美しい愛の寝台
ああ どこに求める 私たちの悲しい寝台があるか
どこに求める
私たちのひからびた醜い手足
このみじめな疲れた魂の寝台はどこにあるか。
[it-k081] 古手紙よ!
古手紙よ!
あの男とも、五年前は、
かほど親しく交はりしかな。
[it-i066] 煙 – 二 (19)
かの村の登記所に来て
肺病みて
間もなく死にし男もありき
[it-i073] 煙 – 二 (26)
その名さへ忘られし頃
飄然とふるさとに来て
咳せし男
[it-i090] 煙 – 二 (43)
あはれかの男のごときたましひよ
今は何処に
何を思ふや
[it-i122] 忘れがたき人人 – 一 (21)
とるに足らぬ男と思へと言ふごとく
山に入りにき
神のごとき友
[it-i202] 忘れがたき人人 – 一 (101)
死にしとかこのごろ聞きぬ
恋がたき
才あまりある男なりしが
[st-w50] 四 深林の逍遥、其他 – 東西南北
男ごころをたとふれば
つよくもくさをふくかぜか
もとよりかぜのみにしあれば
きのふは東けふは西
女ごころをたとふれば
かぜにふかるゝくさなれや
もとよりくさのみにしあれば
きのふは南けふは北