話しかけて返事のなきに
よく見れば、
泣いてゐたりき、隣の患者。
Monthly Archives: 6月 1912
[it-k089] 真夜中にふと目がさめて
真夜中にふと目がさめて、
わけもなく泣きたくなりて、
蒲団をかぶれる。
[it-k088] そんならば生命が欲しくないのかと
そんならば生命が欲しくないのかと、
医者に言はれて、
だまりし心!
[it-k087] 重い荷を下したやうな
重い荷を下したやうな、
気持なりき、
この寝台の上に来ていねしとき。
[it-k086] ドア推してひと足出れば
ドア推してひと足出れば、
病人の目にはてもなき
長廊下かな。
[it-k085] 『石川はふびんな奴だ。』
『石川はふびんな奴だ。』
ときにかう自分で言ひて、
かなしみてみる。
[it-k084] そうれみろ
そうれみろ、
あの人も子をこしらへたと、
何か気の済む心地にて寝る。
[it-k083] 生れたといふ葉書みて
生れたといふ葉書みて、
ひとしきり、
顔をはれやかにしてゐたるかな。
[it-k082] 名は何と言ひけむ
名は何と言ひけむ。
姓は鈴木なりき。
今はどうして何処にゐるらむ。
[it-k081] 古手紙よ!
古手紙よ!
あの男とも、五年前は、
かほど親しく交はりしかな。