かなしい薄暮になれば、
労働者にて東京市中が満員なり、
それらの憔悴した帽子のかげが、
市街中いちめんにひろがり、
あつちの市区でも、こつちの市区でも、
堅い地面を掘つくりかへす、
掘り出して見るならば、
煤ぐろい嗅煙草の銀紙だ。
重さ五匁ほどもある、
にほひ菫のひからびきつた根つ株だ。
それも本所深川あたりの遠方からはじめ、
おひおひ市中いつたいにおよぼしてくる。
なやましい薄暮のかげで、
しなびきつた心臓がしやべるを光らしている。
Tag Archives: 五
[it-k081] 古手紙よ!
古手紙よ!
あの男とも、五年前は、
かほど親しく交はりしかな。
[it-k077] この四五年
この四五年、
空を仰ぐといふことが一度もなかりき。
かうもなるものか?
[it-k008] 家を出て五町ばかりは
家を出て五町ばかりは、
用のある人のごとくに
歩いてみたれど――
[it-k173] 五歳になる子に、何故ともなく
五歳になる子に、何故ともなく、
ソニヤといふ露西亜名をつけて、
呼びてはよろこぶ。
[it-k129] ふるさとを出でて五年
ふるさとを出でて五年、
病をえて、
かの閑古鳥を夢にきけるかな。
[it-k155] 「労働者」「革命」などといふ言葉を
「労働者」「革命」などといふ言葉を
聞きおぼえたる
五歳の子かな。
[it-k152] いつも子を
いつも子を
うるさきものに思ひゐし間に、
その子、五歳になれり。
[it-i008] 煙 – 一 (8)
不来方のお城の草に寝ころびて
空に吸はれし
十五の心
[it-i011] 煙 – 一 (11)
夜寝ても口笛吹きぬ
口笛は
十五の我の歌にしありけり