いつまでも歩いてゐねばならぬごとき
思ひ湧き来ぬ、
深夜の町町。
Monthly Archives: 6月 1912
[it-k009] 痛む歯をおさへつつ
痛む歯をおさへつつ、
日が赤赤と、
冬の靄の中にのぼるを見たり。
[it-k008] 家を出て五町ばかりは
家を出て五町ばかりは、
用のある人のごとくに
歩いてみたれど――
[it-k007] 旅を思ふ夫の心!
旅を思ふ夫の心!
叱り、泣く、妻子の心!
朝の食卓!
[it-k006] 本を買ひたし、本を買ひたしと
本を買ひたし、本を買ひたしと、
あてつけのつもりではなけれど、
妻に言ひてみる。
[it-k005] 遊びに出て子供かへらず
遊びに出て子供かへらず、
取り出して
走らせて見る玩具の機関車。
[it-k004] 咽喉がかわき
咽喉がかわき、
まだ起きてゐる果物屋を探しに行きぬ。
秋の夜ふけに。
[it-k003] 途中にてふと気が変り
途中にてふと気が変り、
つとめ先を休みて、今日も、
河岸をさまよへり。
[it-k002] 眼閉づれど
眼閉づれど、
心にうかぶ何もなし。
さびしくも、また、眼をあけるかな。
[it-k001] 呼吸すれば
呼吸すれば、
胸の中にて鳴る音あり。
凩よりもさびしきその音!