ボロオヂンといふ露西亜名が、
何故ともなく、
幾度も思ひ出さるる日なり。

薬のむことを忘るるを、
それとなく、
たのしみに思ふ長病かな。

新しきからだを欲しと思ひけり、
手術の傷の
痕を撫でつつ。

かなしくも、
病いゆるを願はざる心我に在り。
何の心ぞ。

わが病の
その因るところ深く且つ遠きを思ふ。
目をとぢて思ふ。

堅く握るだけの力も無くなりし
やせし我が手の
いとほしさかな。

起きてみて、
また直ぐ寝たくなる時の
力なき眼に愛でしチュリップ！

はづれまで一度ゆきたしと
思ひゐし
かの病院の長廊下かな。

いつとなく記憶に残りぬ――
Ｆといふ看護婦の手の
つめたさなども。

脈をとる手のふるひこそ
かなしけれ――
医者に叱られし若き看護婦！