つめたく青ざめた顔のうへに
け高くにほふ優美の月をうかべています
月のはづかしい面影
やさしい言葉であなたの死骸に話しかける。
ああ 露しげく
しつとりとぬれた猫柳 夜風のなかに動いています。
ここをさまよひきたりて
うれしい情のかずかずを歌ひつくす
そは人の知らないさびしい情慾 さうして情慾です。
ながれるごとき涙にぬれ
私はくちびるに血潮をぬる
ああ なにといふ恋しさなるぞ
この青ざめた死霊にすがりつきてもてあそぶ
夜風にふかれ
猫柳のかげを暗くさまよふよ そは墓場のやさしい歌ごえです。
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[hs-a34] 閑雅な食慾 – 怠惰の暦
いくつかの季節はすぎ
もう憂欝の桜も白つぽく腐れてしまつた
馬車はごろごろと遠くをはしり
海も 田舎も ひつそりとした空気の中に眠つている
なんといふ怠惰な日だらう
運命はあとからあとからとかげつてゆき
さびしい病欝は柳の葉かげにけむつている
もう暦もない 記憶もない
わたしは燕のやうに巣立ちをし さうしてふしぎな風景のはてを翔つてゆかう。
むかしの恋よ 愛する猫よ
わたしはひとつの歌を知つてる
さうして遠い海草の焚けてる空から 爛れるやうな接吻を投げよう
ああ このかなしい情熱の外 どんな言葉も知りはしない。
[it-k155] 「労働者」「革命」などといふ言葉を
「労働者」「革命」などといふ言葉を
聞きおぼえたる
五歳の子かな。
[it-k029] 新しき明日の来るを信ずといふ
新しき明日の来るを信ずといふ
自分の言葉に
嘘はなけれど――
[it-i215] 忘れがたき人人 – 二 (3)
さりげなく言ひし言葉は
さりげなく君も聴きつらむ
それだけのこと
[it-i218] 忘れがたき人人 – 二 (6)
かの時に言ひそびれたる
大切の言葉は今も
胸にのこれど