わが性のせんちめんたる、
あまたある手をかなしむ、
手はつねに頭上にをどり、
また胸にひかりさびしみしが、
しだいに夏おとろへ、
かへれば燕はや巣を立ち、
おほ麦はつめたくひやさる。
ああ、都をわすれ、
われすでに胡弓を弾かず、
手ははがねとなり、
いんさんとして土地を掘る。
いじらしき感傷の手は土地を掘る。
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[hs-a07] 幻の寝台 – 青猫
この美しい都会を愛するのはよいことだ
この美しい都会の建築を愛するのはよいことだ
すべてのやさしい女性をもとめるために
すべての高貴な生活をもとめるために
この都にきて賑やかな街路を通るのはよいことだ
街路にそうて立つ桜の並木
そこにも無数の雀がさへづつているではないか。
ああ このおほきな都会の夜にねむれるものは
ただ一疋の青い猫のかげだ
かなしい人類の歴史を語る猫のかげだ
われの求めてやまざる幸福の青い影だ。
いかならん影をもとめて
みぞれふる日にもわれは東京を恋しと思ひしに
そこの裏町の壁にさむくもたれている
このひとのごとき乞食はなにの夢を夢みて居るのか。
[it-i083] 煙 – 二 (36)
馬鈴薯のうす紫の花に降る
雨を思へり
都の雨に
[it-i233] 忘れがたき人人 – 二 (21)
石狩の都の外の
君が家
林檎の花の散りてやあらむ
[it-i033] 煙 – 一 (33)
田舎めく旅の姿を
三日ばかり都に曝し
かへる友かな
[st-w51] 四 深林の逍遥、其他 – 懐古
天の河原にやほよろづ
ちよろづ神のかんつどひ
つどひいませしあめつちの
始のときを誰か知る
それ大神の天雲の
八重かきわけて行くごとく
野の鳥ぞ啼く東路の
碓氷の山にのぼりゆき
日は照らせども影ぞなき
吾妻はやとこひなきて
熱き涙をそゝぎてし
尊の夢は跡も無し
大和の国の高市の
雷山に御幸して
天雲のへにいほりせる
御輦のひゞき今いづこ
目をめぐらせばさゞ波や
志賀の都は荒れにしと
むかしを思ふ歌人の
澄める怨をなにかせん
春は霞める高台に
のぼりて見ればけぶり立つ
民のかまどのながめさへ
消えてあとなき雲に入る
冬はしぐるゝ九重の
大宮内のともしびや
さむさは雪に凍る夜の
竜のころもはいろもなし
むかしは遠き船いくさ
人の血潮の流るとも
今はむなしきわだつみの
まん/\としてきはみなし
むかしはひろき関が原
つるぎに夢を争へど
今は寂しき草のみぞ
ばう/\としてはてもなき
われ今秋の野にいでて
奥山高くのぼり行き
都のかたを眺むれば
あゝあゝ熱きなみだかな