看護婦の徹夜するまで、
わが病ひ、
わるくなれとも、ひそかに願へる。
Author Archives: 石川啄木
[it-k103] 思ふこと盗みきかるる如くにて
思ふこと盗みきかるる如くにて、
つと胸を引きぬ――
聴診器より。
[it-k102] もうお前の心底をよく見届けたと
もうお前の心底をよく見届けたと、
夢に母来て
泣いてゆきしかな。
[it-k101] 病院の窓によりつつ
病院の窓によりつつ、
いろいろの人の
元気に歩くを眺む。
[it-k110] 藤沢といふ代議士を
藤沢といふ代議士を
弟のごとく思ひて、
泣いてやりしかな。
[it-k111] 何か一つ
何か一つ
大いなる悪事しておいて、
知らぬ顔してゐたき気持かな。
[it-k112] ぢっとして寝ていらっしゃいと
ぢっとして寝ていらっしゃいと
子供にでもいふがごとくに
医者のいふ日かな。
[it-k121] いつか是非、出さんと思ふ本のこと
いつか是非、出さんと思ふ本のこと、
表紙のことなど、
妻に語れる。
[it-k120] 今日はなぜか
今日はなぜか、
二度も、三度も、
金側の時計を一つ欲しと思へり。
[it-k119] 寝つつ読む本の重さに
寝つつ読む本の重さに
つかれたる
手を休めては、物を思へり。