あふむきに死んでいる酒精中毒者の、
まつしろい腹のへんから、
えたいのわからぬものが流れている、
透明な青い血漿と、
ゆがんだ多角形の心臓と、
腐つたはらわたと、
らうまちすの爛れた手くびと、
ぐにやぐにやした臓物と、
そこらいちめん、
地べたはぴかぴか光つている、
草はするどくとがつている、
すべてがらじうむのやうに光つている。
こんなさびしい風景の中にうきあがつて、
白つぽけた殺人者の顔が、
草のやうにびらびら笑つている。
Tag Archives: 笑
[hs-t28] くさつた蛤 – なやましき春夜の感覚とその疾患
内部に居る人が畸形な病人に見える理由
わたしは窓かけのれいすのかげに立つて居ります、
それがわたくしの顔をうすぼんやりと見せる理由です。
わたしは手に遠めがねをもつて居ります、
それでわたくしは、ずつと遠いところを見て居ります、
につける製の犬だの羊だの、
あたまのはげた子供たちの歩いている林をみて居ります、
それらがわたくしの瞳を、いくらかかすんでみせる理由です。
わたくしはけさきやべつの皿を喰べすぎました、
そのうへこの窓硝子は非常に粗製です、
それがわたくしの顔をこんなに甚だしく歪んで見せる理由です。
じつさいのところを言へば、
わたくしは健康すぎるぐらいなものです、
それだのに、なんだつて君は、そこで私をみつめている。
なんだつてそんなに薄気味わるく笑つている。
おお、もちろん、わたくしの腰から下ならば、
そのへんがはつきりしないといふのならば、
いくらか馬鹿げた疑問であるが、
もちろん、つまり、この青白い窓の壁にそうて、
家の内部に立つているわけです。
[it-k170] ひさしぶりに
ひさしぶりに、
ふと声を出して笑ひてみぬ――
蝿の両手を揉むが可笑しさに。
[it-k076] 笑ふにも笑はれざりき
笑ふにも笑はれざりき――
長いこと捜したナイフの
手の中にありしに。
[it-i030] 煙 – 一 (30)
おどけたる手つきをかしと
我のみはいつも笑ひき
博学の師を
[it-i128] 忘れがたき人人 – 一 (27)
かなしめば高く笑ひき
酒をもて
悶を解すといふ年上の友
[it-i130] 忘れがたき人人 – 一 (29)
さりげなき高き笑ひが
酒とともに
我が腸に沁みにけらしな
[it-i187] 忘れがたき人人 – 一 (86)
出しぬけの女の笑ひ
身に沁みき
厨に酒の凍る真夜中
[st-w02] 一 秋の思 – 秋
秋は来ぬ
秋は来ぬ
一葉は花は露ありて
風の来て弾く琴の音に
青き葡萄は紫の
自然の酒とかはりけり
秋は来ぬ
秋は来ぬ
おくれさきだつ秋草も
みな夕霜のおきどころ
笑ひの酒を悲みの
杯にこそつぐべけれ
秋は来ぬ
秋は来ぬ
くさきも紅葉するものを
たれかは秋に酔はざらめ
智恵あり顔のさみしさに
君笛を吹けわれはうたはむ