薬のむことを忘るるを、
それとなく、
たのしみに思ふ長病かな。
Monthly Archives: 6月 1912
[it-k139] 新しきからだを欲しと思ひけり
新しきからだを欲しと思ひけり、
手術の傷の
痕を撫でつつ。
[it-k138] かなしくも
かなしくも、
病いゆるを願はざる心我に在り。
何の心ぞ。
[it-k137] わが病の
わが病の
その因るところ深く且つ遠きを思ふ。
目をとぢて思ふ。
[it-k136] 堅く握るだけの力も無くなりし
堅く握るだけの力も無くなりし
やせし我が手の
いとほしさかな。
[it-k135] 起きてみて
起きてみて、
また直ぐ寝たくなる時の
力なき眼に愛でしチュリップ!
[it-k134] はづれまで一度ゆきたしと
はづれまで一度ゆきたしと
思ひゐし
かの病院の長廊下かな。
[it-k133] いつとなく記憶に残りぬ
いつとなく記憶に残りぬ――
Fといふ看護婦の手の
つめたさなども。
[it-k132] 脈をとる手のふるひこそ
脈をとる手のふるひこそ
かなしけれ――
医者に叱られし若き看護婦!
[it-k131] ふるさとの寺の畔の
ふるさとの寺の畔の
ひばの木の
いただきに来て啼きし閑古鳥!