八年前の
今のわが妻の手紙の束!
何処に蔵ひしかと気にかかるかな。
Author Archives: 石川啄木
[it-k073] その頃は気もつかざりし
その頃は気もつかざりし
仮名ちがひの多きことかな、
昔の恋文!
[it-k072] 引越しの朝の足もとに落ちてゐぬ
引越しの朝の足もとに落ちてゐぬ、
女の写真!
忘れゐし写真!
[it-k071] 古新聞!
古新聞!
おやここにおれの歌の事を賞めて書いてあり、
二三行なれど。
[it-k070] 待てど待てど
待てど待てど、
来る筈の人の来ぬ日なりき、
机の位置を此処に変へしは。
[it-k069] 何故かうかとなさけなくなり
何故かうかとなさけなくなり、
弱い心を何度も叱り、
金かりに行く。
[it-k068] 猫の耳を引っぱりてみて
猫の耳を引っぱりてみて、
にゃと啼けば、
びっくりして喜ぶ子供の顔かな。
[it-k067] あやまちて茶碗をこはし
あやまちて茶碗をこはし、
物をこはす気持のよさを、
今朝も思へる。
[it-k066] ひと晩に咲かせてみむと
ひと晩に咲かせてみむと、
梅の鉢を火に焙りしが、
咲かざりしかな。
[it-k065] 珍らしく、今日は
珍らしく、今日は、
議会を罵りつつ涙出でたり。
うれしと思ふ。