あたらしき洋書の紙の
香をかぎて
一途に金を欲しと思ひしが
[it-i114] 忘れがたき人人 – 一 (13)
ふるさとの
麦のかをりを懐かしむ
女の眉にこころひかれき
[it-i113] 忘れがたき人人 – 一 (12)
函館の青柳町こそかなしけれ
友の恋歌
矢ぐるまの花
[it-i112] 忘れがたき人人 – 一 (11)
友われに飯を与へき
その友に背きし我の
性のかなしさ
[it-i111] 忘れがたき人人 – 一 (10)
あはれかの
眼鏡の縁をさびしげに光らせてゐし
女教師よ
[it-i110] 忘れがたき人人 – 一 (9)
おそらくは生涯妻をむかへじと
わらひし友よ
今もめとらず
[it-i109] 忘れがたき人人 – 一 (8)
をさなき時
橋の欄干に糞塗りし
話も友はかなしみてしき
[it-i108] 忘れがたき人人 – 一 (7)
目を閉ぢて
傷心の句を誦してゐし
友の手紙のおどけ悲しも
[it-i107] 忘れがたき人人 – 一 (6)
船に酔ひてやさしくなれる
いもうとの眼見ゆ
津軽の海を思へば
[it-i106] 忘れがたき人人 – 一 (5)
わがあとを追ひ来て
知れる人もなき
辺土に住みし母と妻かな