ひさしぶりに、
ふと声を出して笑ひてみぬ――
蝿の両手を揉むが可笑しさに。
Monthly Archives: 6月 1912
[it-k169] 或る市にゐし頃の事として
或る市にゐし頃の事として、
友の語る
恋がたりに嘘の交るかなしさ。
[it-k168] 何もかもいやになりゆく
何もかもいやになりゆく
この気持よ。
思ひ出しては煙草を吸ふなり。
[it-k167] あてもなき金などを待つ思ひかな
あてもなき金などを待つ思ひかな。
寝つ起きつして、
今日も暮したり。
[it-k166] 放たれし女のごとく
放たれし女のごとく、
わが妻の振舞ふ日なり。
ダリヤを見入る。
[it-k165] 何か、かう、書いてみたくなりて
何か、かう、書いてみたくなりて、
ペンを取りぬ――
花活の花あたらしき朝。
[it-k164] おとなしき家畜のごとき
おとなしき家畜のごとき
心となる、
熱やや高き日のたよりなさ。
[it-k163] 枕辺の障子あけさせて
枕辺の障子あけさせて、
空を見る癖もつけるかな――
長き病に。
[it-k162] 薬のむことを忘れて
薬のむことを忘れて、
ひさしぶりに、
母に叱られしをうれしと思へる。
[it-k161] あの年のゆく春のころ
あの年のゆく春のころ、
眼をやみてかけし黒眼鏡――
こはしやしにけむ。