ひとところ、畳を見つめてありし間の
その思ひを、
妻よ、語れといふか。
Monthly Archives: 6月 1912
[it-k159] 新しきインクの匂ひ
新しきインクの匂ひ、
目に沁むもかなしや。
いつか庭の青めり。
[it-k158] お菓子貰ふ時も忘れて
お菓子貰ふ時も忘れて、
二階より、
町の往来を眺むる子かな。
[it-k157] 何思ひけむ
何思ひけむ――
玩具をすてておとなしく、
わが側に来て子の坐りたる。
[it-k156] 時として
時として、
あらん限りの声を出し、
唱歌をうたふ子をほめてみる。
[it-k155] 「労働者」「革命」などといふ言葉を
「労働者」「革命」などといふ言葉を
聞きおぼえたる
五歳の子かな。
[it-k154] かなしきは
かなしきは、
(われもしかりき)
叱れども、打てども泣かぬ児の心なる。
[it-k153] その親にも
その親にも、
親の親にも似るなかれ――
かく汝が父は思へるぞ、子よ。
[it-k152] いつも子を
いつも子を
うるさきものに思ひゐし間に、
その子、五歳になれり。
[it-k151] まくら辺に子を坐らせて
まくら辺に子を坐らせて、
まじまじとその顔を見れば、
逃げてゆきしかな。