かの村の登記所に来て
肺病みて
間もなく死にし男もありき

かの家のかの窓にこそ
春の夜を
秀子とともに蛙聴きけれ

さりげなき高き笑ひが
酒とともに
我が腸に沁みにけらしな

みぞれ降る
石狩の野の汽車に読みし
ツルゲエネフの物語かな

死ぬばかり我が酔ふをまちて
いろいろの
かなしきことを囁きし人

君に似し姿を街に見る時の
こころ躍りを
あはれと思へ

われと共に
小鳥に石を投げて遊ぶ
後備大尉の子もありしかな

友はみな或日四方に散り行きぬ
その後八年
名挙げしもなし

小心の役場の書記の
気の狂れし噂に立てる
ふるさとの秋

をさなき時
橋の欄干に糞塗りし
話も友はかなしみてしき