とるに足らぬ男と思へと言ふごとく
山に入りにき
神のごとき友

酒のめば鬼のごとくに青かりし
大いなる顔よ
かなしき顔よ

酒のめば悲しみ一時に湧き来るを
寐て夢みぬを
うれしとはせし

かの時に言ひそびれたる
大切の言葉は今も
胸にのこれど

ほとばしる喞筒の水の
心地よさよ
しばしは若きこころもて見る

先んじて恋のあまさと
かなしさを知りし我なり
先んじて老ゆ

ある年の盆の祭に
衣貸さむ踊れと言ひし
女を思ふ

ふるさとの山に向ひて
言ふことなし
ふるさとの山はありがたきかな

雨つよく降る夜の汽車の
たえまなく雫流るる
窓硝子かな

忘れ来し煙草を思ふ
ゆけどゆけど
山なほ遠き雪の野の汽車